エリオット波動とは何であるかと問われれば、「株価は一定のフォームに従って変動するという理論」と答えることができると思います。その「フォーム」に関して、長さや組み合わせのルールが細かく決まっているのです。そして、分析者を悩ませるのは、いまどんな「フォーム」を形成している途中であるかということです。もしもその「フォーム」が完成する前に、どんな「フォーム」になるのかが確実に分かれば、エリオット波動をトレードツールにすることによって大金を手にすることはたやすいと思います。
しかし、現実にはそうはいきません。具体的には、今進行中の修正波が「ジグザグ」なのか「フラット」なのか「トライアングル」なのか、はたまたそれらが合わさった「複合修正」なのかは、どんなに経験を積んでも的確に判断することはできません。また、推進波にしても、「インパルス」になるのか「ダイアゴナル」になるのかはかなりの時間を経過しなければ分からないことがほとんどです。それに、「インパルス」はどこかの波が延長するかもしれませんが、それがどこなのかは事前には分かりません。さらには、いつをもって一つの波動が終了したのかも事後的にしか分かりません。要するに、エリオット波動をマスターしたとしても分からないことだらけなのです。
エリオット波動の大家であるボルトンも「エリオット波動理論は一足飛びに金持ちになる簡単な方法ではない」という意味のことを言っています。わたしも現在、本を制作中ですが、ライターの小泉さんに「いかにもエリオット波動で簡単に儲けることができそうに読者に思われるのは困る。あとからカウントすれば、この通りにやれば必ずと言っていいくらいにうまくいくが、進行中の波を正しく認識することは困難だ」というようなことをしつこく言って、楽に儲けたいと思う人にとってはつまらない本にしようとしています(笑)
そもそもエリオット波動理論は覚えることが多いし解釈も複数あって、簡単にマスターできるものではありません。ツイッターでわたしが勝手にテクニカルの先生として尊敬しているT.Kamadaさん(@Kamada3)ですら「エリオット波動は分からない」そうですし、YEN蔵さん(@YENZOU)さんも、先日お話ししたときに「はっきり言ってエリオットってテクニカルで一番難しいですよね」と言っていました。
そんなに大変なのに、習得しても簡単には儲けられないのですから、軽い気持ちで始めようとしている方には決してお勧めはいたしません。では、どうして社団法人まで作って研究しているのか。それは、エリオット波動は、ほかのテクニカルでは不可能なマーケットの予想ができるからです。正確には「予想」ではなく、「想定」です。「予想」と「想定」のどかが違うかと言えば、「予想」が未来に対する空想であるのに対し、「想定」はルールに従ってカウントしていけば自ずから出てくる結果なのです。ただし、この「想定」は必ず複数のものが出てきます。それも、二つや三つではなく、十くらい出ることも珍しくはありません。また、エリオット波動の強みは、今、相場のどの位置にいるのかということが認識できるのです。
「大きな上げ相場の中の小さな下げ相場のどの辺」という認識も可能です。その認識が正しいかどうかはまた別の話ですが。
要するにわたしが言いたいのは、中途半端な気持ちでエリオット波動を齧ってもそれで儲けることは難しいということです。かつてわたしは、ツイッターで、エリオット波動を学びたいと言っている割に真剣さが足りないと感じたフォロワーを次々にブロックしておおいに顰蹙を買って恨まれていましたし今も恨まれているかも知れません(笑)そのようにしたのは中途半端にエリオット波動を勉強するのは時間の無駄だと思っていたからです。いまは法人として活動していますからそんなことはしませんが、どうせエリオット波動を勉強するのなら、正しい方法で、根気よく、分かるまで続けることが大切だと思います。
エリオット波動に限らず、相場には必勝法はないと思いますし、楽して大儲けを続けることも不可能だと思います。わたしも一日10時間以上はチャート分析をしていますし、研究所のメンバーもチャートの見すぎで免疫力が低下して倒れたりしています。それでも、たいして儲かっているとは思っていません。
こういう風に書くと、エリオット波動なんかに興味を持っても何の役にも立たないのかと思われたかも知れません。しかし、わたしが2015年夏のチャイナショックを無傷で乗り越えられたのも、2015年12月からの大きな調整局面で売りから入って利益を僅かながら出せたのも全てエリオット波動のおかげです。2015年の年末には、わたしが「2016年6月に底入れする」とツイッター等で明言していたのを覚えていただいている方もいらっしゃるのではないでしょうか。国際テクニカルアナリスト連盟の元理事長さんには、「あんたの予想はよく当たる」と言っていただき、大御所先生ばかりの勉強会でも発表する機会を与えられ、いまでも毎月その勉強会では一番バッターのスピーカーとしてエリオット波動によるマーケット分析を披露させていただいています。そこでも「これは私の予想ではなく、エリオット波動のルール通りにカウントしているだけです」と言ってはいますが。
当研究所の事務所がある東証近くのマンションも、小さな中古物件ですが、昨年のエリオット波動によるトレードの利益の一部で購入しました。何度も言いますが、エリオット波動をマスターしたからと言って簡単に大金を儲けられるわけではありません。しかし、大きな損をすることは全くなくなりましたし、ジョージ・ソロスから見れば無きに等しいほどですが、ほんの少しの利益を比較的安定的に出せてはいます。本当のことを言いますと、わたしは素人の方に「こうすれば楽に儲かる」という投資術みたいなものを宣伝するのが大嫌いなので、その正反対の内容のコラムを書きたかったのですが、エリオット波動を勉強しても儲からないというマイナスの印象ばかりを読者に与えるのはよくないという意見がメンバーからあり、控え目にエリオット波動で儲かった話を付け加えてみました。
ただ、これだけははっきりと言えます。エリオット波動にそこまでの魅力がないのなら法人を設立したり、研究にほとんどの時間を使ったりはしていません。どんな魅力があるのかは、ホームページにあるチャートのカウントを定期的にご覧いただきご自分でご確認いただければと思います。また、真剣にエリオット波動を学びたいという方に向けた本をいま一所懸命に作っています。6月にパンローリングから出る予定ですのでご期待ください。(有川)