一般社団法人 日本エリオット波動研究所

Japan Elliott wave research institute

フィボナッチな勘違い

April 9, 2017

いま手元のスマホで「フィボナッチ級数」と検索してみてください。すると、テクニカル手法解説やFXのサイトなどが幾つかヒットすると思います。で、そのサイトを開いてみると「フィボナッチ級数がエリオット波動理論の数学的基礎になっている」などと書いてあったりすると思います。結論から申し上げますと、エリオット波動と「フィボナッチ級数」は何の関係もありません。エリオット波動に関係があるのはフィボナッチ数列やフィボナッチ比率です。

フィボナッチ数列とは説明するまでもありませんが、1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 89 144・・・・と永遠に続くアレですね。フィボナッチ比率とはフィボナッチ数列の項と項の比率のことで、隣り合う項の比率が徐々に1.618、つまり黄金比率に近づいていくというアレです。アレと書いたのはエリオット波動に興味ある方なら当然ご存じだからです。では、フィボナッチ級数とは何か。ここで手元のスマホで「級数」と検索してみてください。すると、「級数」とは数列の項の和のことであることがすぐに分かります。少し意地悪な書き方になってしまいましたが、エリオット波動の説明に「フィボナッチ級数」を持ち出しているサイトはすべて間違いを書いているということになります。そうした間違いを書いているサイトには大手の証券会社も含まれていますから、エリオット波動理論がどれほど正しく認知されていないのかここでも思い知らされることになるわけです。

ではどうしてわざわざ難しい「フィボナッチ級数」などという用語を持ち出してきたのでしょうか。その原因はみなさんお馴染み「エリオット波動入門/パンローリング社」の127ページにあると思っています。では、次はスマホではなく、「エリオット波動入門」の127ページを開いてみてください。下の方に、「フィボナッチ級数」という文字がわざわざ太字になって目立っていますよね。おそらくこれを見た誰かが裏を取ることもなく鵜呑みにして「フィボナッチ級数」と自慢げにブログかなにかに書いて、それを見た人がまた自分のブログやツイートに「フィボナッチ級数」と書いたりしているうちに広まったのではないかと思われます。日本にはエリオット波動を正しく理解しているひとはほとんどいませんからそうした間違いが指摘されることもなく、初心者の人に吸収されていきます。わたしがたびたび指摘している「Y波がダイアゴナルになった」と平然と書いてあるレポートと同じで、著名アナリストが書いたエリオット波動の説明がデタラメであってもそれに気づく人がいないのです。そうして、間違ったエリオット波動理論が拡散されていっているのが現状です。

では、原書にはどう書いてあるかというと「The Fibonacci Sequence」とあります。「Sequence」を今一度スマホで検索してみてください。そこには「連鎖」や「数列」と出ていると思います。「級数」などという訳は見当たりません。「エリオット波動入門」はエリオット波動を学ぶ上での名著だと思いますし、わたしもページがばらばらになるまで何百回も読み返し手垢で汚れ食事中には触れないほどです(やや誇張あり)。しかし残念ながら誤訳が多いのも事実で、当研究所が主催した勉強会では独自に作成した正誤表を配布しました。

しかしこうした間違いは、きちんと調べればすぐに分かることでもあります。ですから、「フィボナッチ級数」と書いてあるかどうかを見ればそのブログやサイトのエリオット波動に対する理解レベルも分かることにもなる可能性があります。

さて、ここからが本題です。フィボナッチ比率として重要な数字は一体どれでしょうか。答えは黄金比率でもある0.618と1.618の二つだけです。これにそれぞれの累乗である、0.236と0.382と2.618と4.236を加えてもいいと思います。たまに0.764をフィボナッチ比率に加えているレポートを目にしますが、0.764はフィボナッチ比率ではありません。1から0.236を引いただけの数字です。フィボナッチ比率とは、フィボナッチ数列の項の数字と項の数字の比率のことです。たとえば55は隣の89の0.61797753倍つまり約0.618倍で、89は55の1.61818182倍つまり約1.618倍です。また55は89の次の項である144の0.38194444倍つまり約0.382倍、144は同じように55の約2.618倍になっています。しかし、どの項とどの項を較べても0.764という比率は出てきません。これは、0.382が1から0.618を引いた数であることから、1から0.236を引けばそれもフィボナッチ比率になるという勘違いからうまれたものだと想像できます。

また、これは勘違いとは別のことになりますが、0.786も重要なフィボナッチ比率と言われていたりします。この数字は0.618を0.5乗して出てきたものと思われます。0.618の0.5乗は0.78612976になります。0.618の0.5乗って、要するに0.618の平方根のことですが、フィボナッチ比率の平方根がフィボナッチ比率かといえば決してそうではありません。しかし、0.786倍が戻りのめどになることも多いらしいのです。だったら、0.618の1.5乗の0.486とか、0.786の0.5乗の0.887などはどうなのでしょう。それらしい数字をたくさん出してこれもあれもフィボナッチ比率だといっておけば、どれかに近いところとリトレイスポイントが重なることでしょう。

ここで疑問に思うのは、本当にぴったり0.236、0.382、0.618、0.786倍のところに戻るのでしょうか。ぴったりでないなら、0.2、0.4、0.6、0.8では駄目なのでしょうか。たとえば、当研究所が集めているデータによると、いまのところ2波が1波の61.8%ぴったり戻った事例はひとつもありません。23.6%も38.2%も78.6%もひとつもありません。それなのに、どうしてフィボナッチ比率まで戻ると多くのひとが思っているのでしょうか。多くの人はそうしたポイントにラインが引かれてあるチャートを見て、そのライン近くまでリトレイスしたり、値段が伸びたりするとフィボナッチ比率が機能していると思ってしまうのでしょう。しかし、それが本当にフィボナッチ比率ぴったりでないなら、はたしてフィボナッチを持ち出す意味があるのでしょうか。

現在、当研究所が集めている程度のサンプル数では、まだフィボナッチ比率が有効でないと直ちに結論付けることはできません。しかし、フィボナッチ比率が有効だと主張するひとがそれを有効だと証明できるデータを持っているのかどうかも疑問です。

フィボナッチというだけで、なにか神秘的な力を持っているような気はします。小宇宙の渦の巻き方さえも黄金螺旋なのだから、そこで生きる人間の経済活動もフィボナッチ比率に支配されているという考えもあることは知っています。しかし、現実のチャートに現れている数値が本当にぴったりフィボナッチ比率なのかどうかを調べて判断しなければ、エリオット波動がオカルトと言われても仕方ないことだと思います。(有川)