コラム
拡大型ダイアゴナルの 3 波はアクション波の中で一番短くはならないというのは本当か
お手元にプレクターとフロストによる「エリオット波動入門」(パンローリング株式会社)があれば、51 ページを開いていただきたい。そこにはエンディングダイアゴナルに関する記述として
「しかし、その第 3 波が最も短いアクション波であったという点で、こうしたパターンは
分析の対象にしたくないものである。その全体的な(中略)われわれはこれを有効な
バリエーションには含めなかった。」
とある。
つまり、拡大型ダイアゴナルという波形の存在は認めないと書かれている。
そして、図1-19には拡大型ダイアゴナルらしき波動のチャートが掲載されているが、確かに 3 波が 1 波や 5 波よりも短い。
推進波であるインパルスは、その 3 波がアクション波の中で一番短くなってはならないというのが絶対的なルールだ。
そのことから、同じ推進波であるダイアゴナルにもそのルールが当てはまるであろうという推測がプレクターに働いたものであろうと考えられる。
しかし、わたしが確認できるかぎりにおいて、「エリオット波動入門」の原書である「Elliott Wave Principle」の第 10 版(2005 年)からは、「その全体的な(中略)われわれはこれを有効なバリエーションには含めなかった。」に該当する部分はそっくり削除されている。
そして、別のページに「拡大型ダイアゴナルは、3 波が 1 波よりも常に長く、4 波は 2 波より常に長い。また 5 波は 3 波より常に長い」とダイアゴナルのルールとして書かれている。
これは、プレクターがその後の研究の結果やはり拡大型ダイアゴナルという波形が存在するという結論に至ったということを意味している。
では、本当に拡大型ダイアゴナルは 3 波がアクション波の中で一番短くならないのだろうか。
プレクターはそれを「always」という単語を用いて絶対的なルールのように書いている。にも拘わらず、そうした拡大型ダイアゴナルの実例チャートは最新版(第 11 版 2017 年)にも一点たりとも掲載されていない。
ここで、「Elliott Wave Principle」に掲載されているすべてのチャートを検証するとある矛盾に気づくことになる。
図1-17をご覧いただきたい。(「エリオット波動入門」では 52 ページ)
下のチャートは traidingview.com から実際のチャートを探して図1-17のようにラインを入れてみたものだ。
確かに大きな 3 波のあとの 5 波がダイアゴナルになっている。
しかし、下値線をよく見ると「ii」波は完全に無視されていて、ダイアゴナルの始点と「iv」波の終点を結んで引かれ
ていることが分かる。
本来、ダイアゴナルもトライアングルもその下値線は 2 番目の波の終点と 4 番目の終点を結んで引かれるべきだ。
そして、正しい方法で下値線を引いたものが次のチャートである。
あらら、下値線と上値線が逆ウェッジ型に開いてしまった。つまり、プレクターがあたかも収縮型のダイアゴナルとして例示していたものは、実は拡大型ダイアゴナルだったことになる。
このダイアゴナルのアクション波の大きさを調べてみると次のようになった。
何と、またしても 3 波が一番短い。
実は、当研究所が解析している波動データでも、3 波がアクション波の中で一番短いとしか考えられない拡大型ダイアゴナルのような波動が多数見つかっている。
しかし、「Elliott Wave Principle」には、前述したようなルールが「always」という強い口調で書かれているため、それを拡大型ダイアゴナルとカウントしていいのか毎度のごとく悩み、研究所内で討論を重ねてきた。
だが、プレクターが例示した拡大型ダイアゴナルに見える波動はいずれもが 3 波がアクション波の中で一番短いものだったのである。
こうした事実から、「 拡大型ダイアゴナルにおいて、3 波は必ず 1 波より長く、また 5 波は必ず 3 波より長い」というのは絶対的なルールではなく、「拡大型ダイアゴナル」の理想形を定義したものであると解釈したほうがいいのではないだろうか。
このことを、全国のエリオット波動研究家に問題提起したいと思う。
また、プレクターは、「Elliott Wave Principle」において、収縮型ダイアゴナルでは「3 波は常に1 波よりも短い」ことをルールとして書いている。
しかし、収縮型ダイアゴナル の事例として同書に掲載している図1-18をtraidingview.com のチャートで調べてみると次のようになった。
明らかに 3 波が 1 波よりも長い。
こうしたことからも、ダイアゴナルの副次波に関するルールは再構築する必要があるように思う。
日本エリオット波動研究所 所長